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【レポ】平井和子「占領下の女性たち」(2025.09.13 学習会)

  • 買春社会を考える会
  • 9月27日
  • 読了時間: 6分

 

学習会の概要

平井和子さんは、著書『占領下の女性たち』や『戦争と性暴力の比較史へ向けて』の内容を中心に、敗戦直後の日本で国家が主導した性暴力の歴史について解説されました。特に、「性を買う男性」の問題に焦点を当て、「男らしさ」や「兵士」がどのように形成され、慰安所へと動員されていったのかという視点を重視して話を進められました。

 

終戦後50年以上が経過して、ようやく従軍慰安婦の問題が社会的に知られるようになりましたが、それに連動する形で国家が占領軍向けに用意した「性接待」の研究は長らく遅れていました。


学習会では、以下の点について掘り下げて考察されました。

 

・なぜ占領期の性暴力が社会問題化しなかったのか

・占領軍向けの「慰安所(RAA)」が設置された背景と目的

・女性たちがどのように集められたのか

・占領軍は慰安所に対してどのような態度をとったのか

・旧満州での性暴力の現実

・被害を語り始めたサバイバーたちの意義

・女性を「守られるべき女性」と「差し出される女性」に分断する家父長制の問題

 

1. 占領期の性暴力が社会問題化しなかった理由

占領軍向けの慰安所(RAA)の存在が広く知られていない背景には、歴史学における「性」を些末な問題として軽視する傾向がありました。戦後、日本の政治中枢が「占領軍の兵士による性暴力が多発する」という懸念から、日本の一般女性を守るための「防波堤」として、性売買をする女性たちを差し出すという発想に至りました。この考えの根底には、「男性は欲望を抑制できない」という「男性神話」と、女性を二分化する家父長制による考えかたが存在していました。


また、長らくこの問題が語られなかったもう一つの理由として、歴史学の研究者の中に「性」を軽視する傾向があったこと、さらに女性史研究者の中にも、女性を二分化する価値観を内面化し、性売買に関わった女性たちを「良妻賢母」側の自身とは異なる存在として見てしまう反省があったことが挙げられました。


平井さんは、性暴力被害者が自身の経験を語ることの困難さについて、一橋大学の佐藤文香さんの研究を引用して説明されました。被害者が生き延びるために発揮した「エージェンシー(主体性)」の度合いが高いほど、「自己責任」と見なされ、被害として社会に認められにくくなるという問題があるからです。しかし、佐藤さんは、この複雑な現実を曖昧にせず、暴力的な構造の中で発揮された被害者の主体性をこそ、丁寧にすくい上げるべきだと主張しています。平井さんもこの視点に立ち、『占領下の女性たち』を執筆されたそうです。

 

2. 敗戦国政府による慰安所設置の背景

日本政府は、占領軍の性暴力を防ぐ目的で、戦時中の「従軍慰安婦」制度の延長として、女性の身体を国家安全保障の手段とする「慰安施設」を急ピッチで設置しました。厚生省や警察が関与し、戦前から女性の売買に関わってきた業者も協力して、日本全国で女性を募集しました。


募集広告は新聞に掲載され、「国際外交」「新しい女性」といった婉曲な表現が使われました。この事実は、国が女性を「守られるべき女性」と「差し出す女性」に意図的に分断したことを示しています。

 

3. 慰安婦として集められた女性たち

敗戦直後の混乱の中、公娼だけでなく、戦争で家を失ったり、生活に困窮したりした女性たちが、衣食住の提供と引き換えに集められました。彼女たちは「敗戦後の性暴力の防波堤」として位置づけられ、国家の管理のもとで性を提供することを強要されました。

性感染症が蔓延し、自費での治療や屈辱的な健診が課せられるなど、女性たちは深刻な精神的・身体的な苦痛を強いられました。

 

4. 占領軍の慰安所に対する態度

当初、占領軍は慰安所を黙認し、多くの米兵が利用しました。しかし、性感染症の急速な蔓延などを理由に、1946年には公娼制度の廃止を求める方針に転じ、慰安所は閉鎖されました。


平井さんは、慰安所を利用した米兵の多くが、そこで女性をモノのように扱うことを学んだと指摘されました。また、日本の少年たちも「マスコット・ボーイ」や「ハウス・ボーイ」として性暴力の被害に遭っていた事実も明らかになりました。

 

5. 旧満州における性暴力の構造

旧満州では、終戦後のソ連兵による性暴力が多発しました。映画『黒川の女性たち』にも描かれているように、逃げ場のない日本人開拓団の女性たちは、「性接待」としてソ連軍に差し出され、被害に遭いました。この記憶は長らく「語られない戦後」として封印されてきました。


この状況下では、被害者が自発的に名乗り出たかのように見えるケースであっても、それは女性が内面化した家父長制の価値観によって、自己犠牲的な状況に追い込まれた結果であり、強要された暴力であるという視点が重要だと強調されました。

 

6. サバイバーの告白とその意義

近年、占領期の慰安所や旧満州での性暴力被害を語り始める女性たちが増えています。彼女たちは自らを「慰安婦」としてではなく「敗戦後の性暴力の被害者」として語り、長らく空白だった歴史を埋める役割を担っています。


被害者たちが「語ることでようやく人間として扱われた」と語るように、その証言自体が、歴史的記録として大きな意味を持っています。

 

7. 家父長制による女性の二分化と再編

慰安所の女性たちは「汚れた存在」として社会から排除され、「守られるべき女性」との分断が進行しました。これは、戦後の「性の自由」が語られ始めたにもかかわらず、女性の身体が依然として男性中心の欲望に奉仕する対象であったことを示しています。


平井さんは、戦前から続く家父長制による女性の二分化が、戦後の混乱期にも構造的に女性を支配し続けたことを指摘しました。

 

8. 沈黙の構造と語りの困難

性暴力の被害者たちは、再び傷つくことを恐れて沈黙を選ばざるを得ませんでした。語ったところで、「自己責任」や「恥」として扱われる社会では、その声は長らく封印されてきました。この語ることの困難さ自体が、家父長制の暴力性を物語っています。

 

おわりに

学習会の質疑応答で、平井さんが「兵士もまた軍隊の構造的支配による被害者である」と述べられたことが印象的でした。これは、軍隊が持つ性に対する攻撃性や、占領地の女性を戦利品と見なす思考が、性を買う男性たちをどのように作り上げたのかという、この学習会の核心にも通じる指摘でした。


平井さんの「被害者がどうにか生き延びようとするエージェンシーを尊重したい」という言葉は、多くの女性にとって大きな励みとなりました。

この学習会は、占領期の性暴力や性売買の歴史を学ぶことが、現在の性搾取の問題を考える上で不可欠であるという重要なメッセージを私たちに投げかけてくれました。

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